Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『歩道橋』


死者が夕暮れの歩道橋の上で
眺めている景色というものの意味を
ホイールがわずかに歪んだ自転車のチェーンのたるみ
手を繋いだ恋人たちは明日はゴミの日だと知っている
日曜日の死者は月曜日になっても死者のまま
スマホを見ながら歩いている生者の行進です
誰もが真剣なフリをしてなにも見えていない
物語だらけのこの惑星で途絶えてしまう生命の宿命
父親に肩車された幼い子供達の行列の先に
何食わぬ顔をした死者が陽気に歩いている
ハーメルンの笛吹きみたいに
優雅な死への始まりをお祝いしている
青信号が黄色信号になって
赤信号になる
止まるものと動きだすもの
死者たちがいっせいに歩道橋からダイブする
アスファルトを通り抜けて溶けていく
ゴミを出しているスーツ姿の男が走っていく
歩道橋の上にはリピートされる死者の行動範囲
日が高くなっていくのに死者の影は伸びないどころか
存在さえしていない
カラスが飛んできて死者と目が合う
飛び立った方向に物語の破片が散らばって
光りながら空中で溶けた