Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

2016年「詩」

『太陽』
眩しくて目を閉じると見えない、ただ感じている。熱さや強さを。
影が出てきて伸びて、ついてくる。分身にもならずに僕の名残惜しさみたいに。
だけどね、光の速度で祈ってみようと思うんだ。思ったんだ。
祈るってことはそれだけで強い愛、いや僕は愛なんてものはわからないから違うのかもしれない。
でも、限りなく愛に近いそんなものだ。と言い切りたい。
青空に浮かぶ太陽に届くほどの祈りはイカロスの羽のように溶けてしまうか、
しまうのならば溶けて落ちてきたロウでLOVEって形作ろうか。
でも、愛とLOVEってなにかが違っている、気がする。
たぶん、意味あいが違うのさ、だけどその意味の違いを僕は知らない。
いつか祈りが届いたらその時は、また目を閉じる。
想いが、空に溶けて、太陽に照らされて輪郭だけが、ただ、ある。



『誰もいない』
あらゆるものの角度、
過ぎ去っていく面影、
世界は平等ではないと言い切った君の横顔、
いくつかの事柄が複雑に噛み合った結果、
そこには僕しかいないのに、僕以外のすべてがあるような錯覚、
いや、確かにあるのだ。
この今の時間と同様に存在している過去の時間と未来の時間が。
トリックアートのように左右縦横が繋がって循環していく、
それも錯覚の一部だけど。時間は進んでいるのにレイヤーはいくつかある。
だから、誰もいないような街角に立っていて今以外の時間での人々が見える、
皮膚の感覚でわかる。
君も大勢の中にいて溶け合うのが嫌だから。個が奪われたくないから、
ひとりでいることが多い。故にいろんな時間の中に存在している。
横顔だけ残してふいに消えて、でもいたる場所に居る。



『呼吸』
空気が冷たいから肺を意識する。
吸って吐いて吸って吐いて。
幾度となく繰り返している呼吸は、いつ覚えたのか。
もう備わっていた事は本能か。
知らない間に生まれていた。それは本能か。
呼吸する事は誰にも教わらなかったし、気づいたら居た。
もう存在しちゃってたんだよ、吸って吐いて吸って吐いて。
繰り返しながらもうここにいた。
深呼吸をする。冷たい空気が肺を満たす。
ああ、ここにいる。
吸って吐いて、吸って吐いて吐いて吐いて。
吸う、数?
知らない間にいたのならそれはもう正しさを伴っている。
呼吸、吸って吐いて吸って吐いて。ここに。



『たったひとりの女の子』
彼女の視線はどこか哀しげだ。
いちど何かを諦めてしまったようなそんな温度、絶望を知っている光。
僕はその瞳に期待する。
哀しそうな顔の君が笑うのを見たい。でも、その笑顔は僕だけにと思う。
そんなこと不可能なのに。
とびっきり素敵な女の子、いつもは不機嫌な女の子、君の冷たい視線。
僕は君の隣で笑っている顔を見たい。だけどその微笑みも諦めの先にある。
君が幸せになればいいなとどこか他人事、僕は君を笑わせることができない。



『惑星』
猿が踊っている惑星で干支がひと回りアンダースタンドな投法。
落ちていたロケット鉛筆を持って空中になにかを書いている。
神はいなくて、ただ猿とロケット鉛筆、いやロケットペンシル
わかっているのかいないのか猿は手にしてるそれを空に投げる。
宙で一瞬爆ぜる。音と熱がして猿のが燃える。
ファイヤーモンキー、リンボーダンス、アンダースタンドな姿勢できない。
ロケットペンシルは宇宙に向かっていく、猿だけ、いやこの惑星を残して。



『ランダム』
黒い空の中に笑っている光の束が分裂していく。
ああ、終わるのだと僕が言えば、君は始まるのだと言う。
光の細切れは大地に降り注いでランダムに人に刺さる。
赤い血が大地に流れて、息絶えた人々の口から光が放射される。
死に絶えた体は徐々に硬質になっていって新しい批評になる。
批評、いや資料、いやいや肥料だ。
刺さらなかった人々はその肥料を担いで、
光にできるだけ触れないようにして、
家に持ち帰って庭に埋める。
すると新しい太陽の芽が出てきて夜中でも生活ができた。
ランダムに死んだ人のおかげで、おかげで。



『波』
消滅するのは時間、いや体感、瞬間、獰猛な目だけが見据えている。
そう視線のみだけがあり、ゆえに見られているという自意識に踊る。
空中に浮かんでいる言葉尻を掴んでブンブン振り回す、
落ちてくるものは母音ではなく、子音なのか、


音が撒き散らされてノイズしかない。
ブンブンどんどん振り回す、音はやがて消える、いや速すぎて。
もう聞こえないのだ。消滅したのは僕、いや音の波。



『表情』
苦笑いばかりするとほんとうの笑い方を忘れてしまうらしいよ
泣き笑いばかりしてたらほんとうの泣き方を忘れてしまうみたい
ただ笑っていたい日々はいつだってそこに、この瞬間に、
あるのだけど笑えないことが多すぎてうまく笑えないようになっていく
ああ、笑えないって泣きたくもないし
僕はどんな表情でいまここに立っているのかって君の表情で探る



『咲いて』
君の片思いが実ってしまったらそこから芽が出ていつか花が咲くのだろうか
咲いた花はどんな色をしてるんだろう
君と片思いの誰かの関係性と日々の生活によってその花は成長する
僕はそれをどんな気持ちで見ればいいんだろう
その美しく咲くであろう花を僕はキレイだなと言えるだろうか
いや茎から折って花をちぎってしまうことはないだろうか
だからどうか花が咲いたら僕に見せないで
僕が忘れてしまう頃に咲いていて



『灰』
いつも大きなものに流されていく
新しい象徴は受け入れられては飽きられる
その名前が変わるけど欲望の質は変わらない
消費されつくしも残るものがあるとして
燃えがらの灰の中に光ものだけは残る


輝きは色あせずにただそこにある
だけど通り過ぎた人は
大きな流れにしか身を任せない人はもう気づけない



メタフィクション
語り部がそこにいる
語られている人がそこにいる
語られていると思っている人がいる
だが、書かれた文字や映し出された映像が
真実だって一言も言っていない
フィルターがかかっている、薄い膜がある
彼が彼であると勝手に思い込んでいたから
彼が彼でない時には次元が変わる
ぐるりと反転する
反転した方が真実に近い、でも、反転する前の世界は
嘘か、真か、どちらでもありどちらでもない
レイヤーが重なるほどに可能性は増える
そして真実はどこかに彷徨う



『たより』
この寒さがゆるやかに去り、
眩しい季節のあとに
また同じような寒さが舞い戻る時に
なんにも現状が進展してなかったら、と思うと怖すぎる。
だからこの感覚や感情だけがたよりだ。



『三日月』
風が通る、いやその空間を通りゆく僕がいる
体温が下がっていく、だから皮膚感覚がマヒしていく
指先に血が通ってないような、ただの肉
重さすらも遠くにあるような
意識と身体が乖離していく感覚という感覚
ああ、冷たい風が頬を撫でていく死神の吐息
車のヘッドライトが照らすのは僕じゃなくて
傍にいる死神の大きな鎌の刃先
つるりと輝いて浮かび上がる
ずっとずっと彼方に飛んで行って三日月



『いつくしみ』
いつくしみという言葉
やわらかそうだけど言いづらい
あまり会話で使わないけど心にはあるようなもの
だけどやっぱり使いづらい
慈愛と言われてもなんか菩薩の心みたいな
どうしてかなにか上からの想いみたいだ
だからってどうということもないのだけど
いつくしんでいるともあまり使わない
慈しみと漢字とひらがなの組み合わせになるとなんか寂しい
いつくしみってひらがなだけだと伝わりづらい
そう、それは届きそうでわかりやすそうでわからない想い



『ゴースト』
小学生の低学年の頃は子供だけで学区内を出て遊びにいくのはダメだった。
でも何人かの友だちで自転車でその境界線を越えて遊びに行くのはドキドキした。
見つかったら怒られるけど未知の世界と言うか広がっている世界に足を踏み入れる事の興奮の方が増していた。
広がるパノラマ、知らない匂いがした。
少しずつ移動距離も知識も増えていくと行動距離は広がり町を、市を、県を、越えて動けるようになる、もう国だって越えられる。
二十歳を過ぎて東京に出てきた時に僕には知り合いは誰もいなかったし、友だちらしい友だちは誰も上京してなかった。だから一旦ゼロになって二十代は始まった。
時間の波は止まることなく膨大に増え続けてその中に巻き込まれていく、
時間が季節が一年が過ぎていくのが感覚として早くなっていく。
自分自身の時間の地層が積み重なる、
過ぎ去っていったそれはゴーストのようにいつも片腹にあり僕らは時折ゴーストに付きまとわれたりしながらも未来に進む。
僕らの時間は少なくなっていく。
やがて消えゆき肉体の残り時間は消滅する。
人の死は肉体の、その個人の死が第一段階にあり、その人の事を知っている人達の中に残された記憶が存在する限りはまだ世界に存在している。
やがて僕が死に、僕の記憶を持った人達も死んでしまうと僕の死は第二段階に入る。
第二段階の死は記憶の死。
世界の記憶から消えていく、その時人は本当に死んでいくのだろう。
だけども今はネットがある、死んでも僕らが残した文章や何かはネットのどこかに潜んでいて、それらのシステムが崩壊し消えない限りは。
という事は現代の僕らは第二段階の死の先も世界に残りうる。
好きな、
興味のある世界にダイブしていくとその界隈や周辺の人達と知り合いになっていく。
知り合いや顔見知りの人が増えていくと、
時折世界というのはどうやら思っていたのよりも狭いのかもしれないと思え、シンクロしているのを知っていく。
動き出したら繋がって連鎖していく。
シンクロを感じて繋がっているのを知った時に少しだけ時間の波に抗えるような気がする。とんでもない事や哀しい事があってもなんとかこの世界を楽しめる、面白い事は起きていくんだと思える。
そのためには動き出さないといけない、点と点の間を動いて見えなかった線に気付く。僕が東京で出会った人たちはそういう人が多い。
面白そうな人達に近づいていって話をしにいってそこに入って巻き込まれていけば面白そうな事が起きていく。面白い事がないなんてことはない。
面白い事ばかりだ。
僕らは革命なんて起こせないけど、
だけど世界に深くダイブすることはできる。



『春夏秋冬』
春と修羅
夏と蓮華
秋と龍神
冬と羅刹



『浮かんでる』
アパートの壁をコンコンと叩く
薄い壁の向こう
空洞みたいな音がする
コンコンと叩き続けると違う音がする
何かがある 
空洞ではなくコンクリートかなにかで塞がれている
鈍い音の反響があってその感触に
コンクリートみたいなもので隠されているのは白骨死体
イメージがあふれる
突如、白骨死体がコンクリートと壁をぶち破って
こちら側にやってくる
砕けるコンクリート破片と薄い壁だったもの
白骨死体は、そう僕だ
過去の僕の面影だけを残している骸
壁の向こうは過去
戻ることはない時間軸に無数にある白骨死体の僕
今だって僕は白骨死体になろうとしている
羽化して現在進行形の僕になる
羽化してる、浮かしてる、浮かんでる?



『居場所』
物語とは「居場所」を巡るお話だ。
どこにいても誰といても
いや、どこにいて誰といるかが大事なことだ
逃げ出したくなる環境から逃げて、逃げて、逃げて
たどり着いた場所で新しい関係性ができる
だが、そこが大切な心地いいものになったとしても
それは移りゆくもので、確実なものではない
変化し続けていくものだから
「居場所」だっていつか気がつかないうちに
毎秒毎分毎時毎日毎月毎年
変わっていってしまう
そしてここではないどこかを夢想する
君の求めるものはその瞬間にしかない
今が愛おしいならこの瞬間だけが「居場所」になる
いや、それだけが君の宿り木。



『ないで』
泣いてないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないでないで



『TRANSLATOR』
伝えようとする 
なにかに変換しなければ伝わらない
そのまま伝えようとしてもそれでは共通言語にならず
翻訳する者は透明ではない
どんなに薄くてもその存在のフィルターはかかる
かかるざえない
意味は追加されるのか削減されるのか
ただ、伝えるためにフィルターはいる
いるんだ
言葉だけではなく、ジャンルをこえて表現の枠をこえて
ほら、新しいものが伝わる
本来の意味に何かが足されて引かれたもの
そう、
だから、
越えてきたものだ
伝えるということはそういうことを否応にも孕んでしまう



『まどろむ』
まどろみながら夢を見ていたい
誰かに愛されるような甘さを
誰かに羨ましがられる憎さを
誰かを貶めてしまうような皮肉を
まどろんだ先で誰と一緒にいたのか
それすらもモザイクな心象風景になる
雨が降り出して空中に浮かんでいた塵が地上に落ちた
クリアな視界になったまどろむ世界
なにがまどろんでいたのかを知らないままに
塵と埃が消えた世界は綺麗すぎて目がくらむ



『誰といた?』
あの時誰といたのか、ということがいつしか思い出になる
次第に薄れていく景色の中で
ぼんやりと浮かぶもの
漂う香りで思い出す後ろ姿
君のうなじのライン
転がっていった空き缶の音
これ見よがしに通り過ぎた車のヘッドライト
汚いのれんの店から流れてくるいい匂い
優しく撫でるような風とふんわりめくれるスカート
なにを思い出すのだろう
なにを忘れていくのだろう
忘れたくないことばかりだねって言った君も
すべてをなくしたいと言ったあなたも
忘却した空のした
今日も元気ですか?



『ふれ』
ふれたのに
どこにもない
青い雫だけの連打の音
猫がブロック塀からジャンプしてくる
ふわっと舞う猫の毛がすぐに見えなくなる
時間という概念のようにあるようでない
見えなくなってどこにもない
あるのは想いぐらいだけど
ふれられないから不確かだ
あるべきところに収まっていない
ふれられたら
どこかにいってしまう



『哀優』
哀しくて優しい小説が書きたい
矛盾してるような、でも近しいものが
同居するような肌触りみたいなもの
いつかそういうものに
なればいい
面白くて楽しい小説は
きっと無理だろうから
哀しみの果てになにがあるかなんて
知らないって歌ってたけど
哀しみの果てに優しさがあればいい気が
最近はしてる
優しくて哀しいではない
哀しくてどこか優しいものを



『喋る』
思考すること喋ること結びついているのに
零れ落ちてしまうもの
それをうまく零さないようにする
だけど零れ落ちていくものがある
たぶんそれをうまく説明するために
なんとか形にするために人は話すんじゃないかな、って
話すことは伝えること、伝わらないこと
その差異ができるだけ薄くなるように
でも、話さないと自分の中で腐敗していまう
芽を出すためには自らの外に出すしかない



『幻影』
もういない、君も僕もいない。
あの時の姿は風に舞って、火で炙られて、土に埋められて
新しい自分しかない
会いたかった君も、僕もいない
しかし、どうだこの現在進行形の僕たちは
いなくなったはずは幻影の世にまとわりついている
たまに陽炎のように揺らめいて見えることがある
実態はない、あるのは脳裏にだけだ
もういないのだ、と思うとすべてがどうでもいいとすら感じる
だけど毎日は続いていってしまう
もう君も僕の今日は舞って炙られて埋められた
なにかが違うのかよくわからないんだ



『嫉妬』
向こうからは見えていない、こちらからだけ見えている
見える、見えない、その境界の先にあるもの
届かないから眩しくてムカついて
声に出してノーって叫びたいような気持ち
わかりきったことも人には言われたくない
言っていいのは自分だけか?
ああ、相手にされてないってことに気づいているから
届かないってわかりきってるから
さあ、この想いが間違ってしまった方向に
向かなければいいのだから
そう、この感情は負から始まる先への一筋



紫煙
ふらりとする
暗がりの中でまっすぎな眼
知っている色が
懐かしくて新鮮だった
なにかが変わったのか
変わらないままに
星の下で紫煙を吐いている
その匂いと声色と冬の一日



『虹』
ブクブク、ブクブクと
はるか下から浮かび上がっている気泡
泳いでいるのは七色の鱗を持つ古代魚
鰓で呼吸をしている
その口にくわえられたあなたはなぜか息ができている
そのままもっともっと下に連れて行って欲しいと
泣く、泣いているけどその涙は混ざって溶けてしまう
古代魚が舞うたびに水中に虹が舞う
あなたはそれを見てキレイだと思っている
もっともっと乱反射するような虹を見せて



『流星』
星を見上げている君の横顔を見てしまっていた
その表情を閉じ込めたくてゆっくりと目を閉じた
この刹那だけが永遠の眷属
今、君が横にいてくれることだけが至福
そして、君も僕もやがていなくなるだけだ
どうしようもなく哀しい運命だ
星の輝きよりも儚くてまぶしい
冷たい君の手を握りしめると
君はどうしたの?と僕を見る。
ゆっくりと目を開けて君を見る
流星は見つけれそうにない



『たまねぎ』
たまねぎの皮と少し青い部分を取った
包丁で一センチぐらいの感覚で切る
泣いてしまうだろうと思ったけど
涙はすぐに出てこなくて
どちらかというと目が痛い
たまねぎを切ると泣いてしまうと無意識に思っていたのかも
沁みるような痛さがあって、
涙は出てきてはくれない
泣きたいわけじゃなかったけどたまねぎを切って
少しだけ泣いてみたかったけど
ただ痛いだけ



ウォーターフロント
電車の中にいるのだけど、視界は青の色
窓の外には魚が泳いでいる
車内も水で溢れていて、電車はいつの間にか水の中を走っていて
すべての水の中にあるといえる
だから、すべては青の色の中にある
目の前にいた彼女はなんともない顔をして車内を泳いでる
おいでよ、と彼女が笑うと口から酸素が溢れ出る
笑ってしまう僕の口からも
青色の世界を彼女の後を泳いで進んで行く
僕は走っているはずの電車の中を肺呼吸ではなく
もはや鰓呼吸しながら先頭車両に泳いでいく
ここはもう水際ではない
ここが最前線な青の世界、それがすべて
泳いでる僕らはいつだって鰓で呼吸して恋をする



『酔いどれ』
つまみは映画でビールを飲んでいる
スクリーンでもビールを飲んでいたから
ああ、同じだってプレモルの小瓶を口に近づける
体が少し熱いような、ふわりという感覚があって
輪郭がゆるやかにゆるんでいく
ビールばかり飲んでいると物語が追えない
最後の終わり方はどうだったかビールは教えてくれないけど
なんだか嬉しいという気持ちだった



『かわいい』
かわいいと感じていたことがいつか終わりを告げる
好きだという気持ちが景色を変えていくように
過ぎ去ってしまった景色はもう過去のワンシーンでしかない
繰り返していくことはできず
想いはもう一瞬のうちに満開になって君を彩った
花弁は散って舞って風に運ばれて
君の想いも、僕の想いも、いつかの風景の中にしかない
かわいかった君はもういない
そうやって僕たちはいつだってかわいかったとか好きだったとか
過去形がゆっくり消えていくのを待ちながら
かわいいが彩る日々を心待ちにしている



『The End + One』
終わりの風景に佇んでいるあなたが思い浮かべているのは
かつての誰なのだろうか
ふいに振り向いた先に見えた気がした人はもういないのに
なにか夏の日の残像みたくあなたは感じた
一番会いたかった人の気配を
すぐに風と共に残像も運ばれていってしまう
頬を撫でていく風の行く先を
あなたの瞳から流れる雫が
落ちながら教えてくれていた
あなたは歩き出す
かつてあなたの手を握っていた体温を思い出しながら
もういないことを握りしめて



『歯ブラシ』
寝起きまなこで目が覚めるために蛇口をひねる
顔を拭いて朝歯ブラシっでって感じで
カップに入ってる自分の歯ブラシと歯磨き粉と君の歯ブラシ
使われていない色違いの君のもの
君の歯ブラシはいくつあるのだろうって思いながら
歯ブラシして口をゆすって
うがいして元に戻す いつも通りのカップの中に
僕と君の歯ブラシと歯磨き粉
使われていない 使われることの可能性を思う
いつ捨てればいいのかって教えてくれない歯ブラシ
君の歯ブラシはあと何本



『フラワーガール』
フラワーガールが海辺で佇んでいる
近づいていくとこちらを見て
右手で顔の花を一本抜いてわたしに差し出した
ふんわりとした黄色い花
受け取ると花は燃え出して黄色い炎になって消える
フラワーガールはもう一本抜こうとする
それを断って海辺に座ろうと提案した
フラワーガールと打ち寄せる波を見ている
わたしの肩に花が寄りかかる
甘酸っぱい匂いがしていて
鼻を近づけると花が笑いかけてくる
遠くから匂いにつられたミツバチがやってきて
蜜を吸うと彼女はくすぐったそうに笑う
ミツバチはたくさんの蜜を蓄えて飛んでいく
その方向には地上に落下しそうなオレンジ色の夕日
萌えるような地平線にミツバチが飛んで行って
フラワーガールと夜に落ちていく



『カイト』
空から地上を見たいというから、
背骨をギュッと焼き鳥の串みたいに
引き抜いてグニャグニャになったあなたを天日干しして
糸をつけてカイトにしたら空に舞い上がった
そこからの景色はどうだい、
と手を離したら大気圏に向かっていった。
ずっとずっと上の方に、
太陽を目指すように僕と離れていった。



『通過』
大きな空の先に丸い虹が見えた
七色の光輪の間を通っていけたら
君の場所にたどり着けるのかもしれない
通過、通過、通過
近くにあると思ってもまだまだ先にある丸い虹
手を伸ばすと掴んでいるような錯覚
通過できない 通過できない 通過が遠い
次の雨が降る前に
通過 通貨 two羽化 雨下にはなるな
光輪の間の空が青すぎて目を閉じる
あっ通過した



『いまここ』
この世界には入れ違いと思い違いが大半を占めている
どうにもうまくいかない日々はいつもより多く寝てみる
とくに変化の兆しはないけども
肉体だけは丈夫にしておきたい
心が疲れた後に体までやられたら元の木阿弥
というより二段階で落ちてしまう
体力をつけよう体力を
本当に体力だけが自分を救うのだろう
さあ、走ろう 無理ならコンビニに行くぐらいの散歩を
春先に桜が舞う頃には
入れ違いも思い違いもなにもなかったぐらいに次のことを
春はもうすぐだというのに
冷たい風が夕暮れの商店街の埃をさらっていく
少しずつ夜の時間帯になって人々は家路を辿る
さあ、夜が来て朝がくる
明日は少し早く起きて走ろうか



『246』
滑り落ちそうな月の雫が浮かんでいた
夜空とビルの明かりが煌めいている東京
ヘッドライトの光が通り過ぎていくだけで
空から雫が落ちてこないけど
なにか思い出を彷彿させるような光を放っていた
246沿いの景色と共に
さあ、家に帰ろう
月を背にして
滑り落ちたものがあったとしても
今の僕には見えないのだから



『彷徨』
遠くに見えたものに唾を吐いてもなにも変わらない
オレンジ色の時間帯に飛んでいくカラスの美しさ
届かないことに諦めを飲み込むのではなくて
いかに飛ぶことができるのかやりかたがあるのか
必死に探すだけだしそれを発明するしかない
空の青さや橙色が消えた紺色と黒の狭間の中で
光るものになれたらいい
自ら発光するのかなにかの光を集めるのか
見え方と見せ方の在り方を
もっともっと叫びながら彷徨せよ



『いつか』
いつか来た道だと思うのだけど
それがどのくらい前だったのかわからなくなる
いやどのくらい先の光景だったのかもしれない
道は幾重にも分かれている
どれを選んでも結論は同じであるのならばそれは宿命だろう
過去も未来も現在も同時に存在している
今、目の前にある道は過去へ、未来へ同時に繋がっているが
それは確かに変えれる
宿命は見取り図のような装いで全てじゃない
選んだ道を掴んでいけば運命になって変わっていく
変えるなら今だ



『この町にはあまり行くところがない』
生まれた町には特になにもなかった
国道沿いにあったコンビニだって潰れていた
僕が東京から帰って見たら近所の家々は新しく建て替えられたか更地になっていた
大きな街の新幹線が停まる駅からバスに乗って帰る
国道沿いの景色はほとんど変わらない
墓石を作っている作業所みたいなとこも使ったことのないラブホもまだある
どんどん生まれた町に近づいてくる
曲がりくねった川が視界の隅にうつる
途中で小学校が同じだった男の子がなんにんかの集団で乗ってくる
彼は特殊学校にいた子だったが大人になった今は
あの頃の雰囲気をそのまま年取った感じでなにかが哀しい
その集団は大人しく窓の外の景色を見ていて
それぞれの家の近くの停留所で降りていく
大きな銀行が見えてくる前に僕は降りる
そこは祖父が亡くなった病院のところで
最後に見た時には半身不随で手を握るとなぜか僕だとわかったという
祖父がなくなったのはゴールデンウィークの初日で
いきなりのことだったから新幹線も乗車率が100%を超えていたから
品川から最寄りのその大きな街の駅までほとんど立っていた
バスから降りて病院の隣にあって潰れていないコンビニに寄る
知り合いには合わないままで買い物をして
国道沿いを歩いていく
通り過ぎる車にもしかしたら同級生が乗っているかもしれない
だけど僕も彼も彼女もきっと気づかない
歩いている町にはほとんど行くところがない
帰ってくると傾斜の激しい丘みたいな場所にある墓に参る
家の墓はかなり高いところにあって町が見渡せる
どこにも行けないと思っていた風景が広がる
5時になると時計台みたいなところから音楽が鳴る
いつも聞いていたそれはまだ鳴らない
背景にある木々が揺れる
遠くにあるさっき歩いていた国道沿いの車の音が小さく聞こえる
丘の上から町を見てもどこにも行きたい場所がない
急な坂を下って家に向かう
見慣れた家も古びていて家族も年老いている
道路を挟んで母屋にの反対側にある倉庫みたいな離れ
そこの二階が高校生からの僕の部屋だった
深夜に窓を開けて国道の方を見ると赤信号がずっと点滅していた
一階には毎年つばめが帰ってくる
巣立ったどれかが親鳥になって帰ってきて子育てをする
永遠と続いている帰巣本能が一階にはある
僕はここから出て行ったのはまだここがあるからだ
だけどここに帰ってくる理由もどんどんなくなっていく
この町にはあまり行くところがない



『理由』
風呂場に流れる血は水で排水溝に追いやられる前に写真で撮る
口の中が赤に染まっているそれも
裸は白くてところどころマーブルなソバカスみたいな斑点もある
金色に近い毛は光に当たると消えてしまうような錯覚がする
泣いている写真はなんのためなのかわからない
英語で書かれているから理由ははかれない
瞳はまっすぐで強いのになにか儚い
裸になるのはきっとそれが正しいと感じているから
その体で表せるものが彼女の存在証明かもしれない
雄弁に答えるように君の胸や陰毛は見える
きっとすぐに消えてしまうような美しさはもう
止まることはない
だから今シャッターが押される
いま閉じ込めた



『魚類を喰らう』
午前八時前、風が強く吹いている
小雨みたいなものは降っていなかった
空を見上げるとなにか落ちてくる
光るペンダントを持つ少女なんかじゃなかった
イカだった
どこからって空から落ちてきてコンクリートにベチャって
今度はイワシが五匹落ちてきた
どんどん魚類が落ちてくる
ビチャビチャとコンクリートを叩く
魚の大きさはどんどんデカくなってきて
カツオはさすがに当たったらヤバいと逃げた
空って海だったっけ
海のない街に魚類の群れが
上空を黒い翼の集団が旋回して
舞い降りてくる
カラスが魚類を嘴でつつく
イワシをどんどん飲み込んでいく
落ちてくる魚類を黒い鳥は避けながら食べ続ける
こんな世界間違っている



『遠く』
遠くまで見える家家家家、ビルビルビル、建物たち街の風景
見渡しているけどこれはわたしのものではない
ずっと先まで続くいろんな人たちの生活が孕まれている日常空間
どこにも行けるようで行けない同じように見える世界
ここにいるわたしが見えているものはなに
なにを見てなにを見ないでいるのだろう
見渡すすべてが焦土化していても
わたしは今見える景色をトレースして
現実を塗りつぶすだろう



『同じ夢』
なんかどっかの楽屋で知らない人とエロいことをしていた
雨が降って水浸しの町の道路
プールにシートを浮かべてその上を走るみたいに
草や木々の上を原付でなんとか渡りきる
先の家に入ったら蛇がいてどこかにどける
誰かが来て家を出ようとしたら
その蛇がまた現れたから外に出したら、
目が覚めた。



『プラスチック』
プラスチックな魂はグジャグジャと
駅から歩いてくる人たちの靴に潰されている
元の形には戻ることはない
中身はこぼれ出ているし外側も壊れている
誰かに蹴飛ばされて排水溝に落ちる
ドロップしてその泥水やゴミの洪水の波
浮かんで先へ進んで行く
海へ海へ
プラスチックは自然にはなれないから
どこまでいってもある意味では変わらない
海へ海へ
辿り着く頃には中身は違うもので満たされていて
外側も内側もなにか違うものになっている
でもプラスチックな魂はそのまま



『スルー』
どのくらい届いたのか誰か伝えてほしい
いつだって通り過ぎるだけの熱量の行き先は
もうぶつかっていくことがないから
存在していたかすらわからなくなる
想いのベクトルはもう手元から離れてしまって
跡形もない
だからその先でどうなったのか
おしえて欲しかった
もう通り過ぎていくだけのものは
ないようなものと同じだって
お願いだから
通り過ぎた先で幸せであればいい
違う熱量が大爆発しながら
新しい天地創造
通り過ぎた色彩の中で



『街』
すれ違う人たちの多さに立ち尽くす
自分とは関わりのない人たちの世界が同時に動いている
もう誰も彼もが己の生を全うしようと足掻いている
街の風が吹く方にあるのが幸せなのか不幸なのか
なんて誰にもわからない
ただ、できれば誰もが幸せな世界を望むのだけど
どうやらそれも無理らしい
僕の幸福だってどうなるかわからない
あなたの哀しみを引き受けるほどの覚悟もない
なにも言わずに聞いてあげれたらいいのに
でも、僕はきっとなにかを言ってしまうだろう
君の求めるものを持っていないから
通り過ぎる人たちの背中に孤独と勇気を感じて
いつだってみんなひとりで立っている
時には誰かに寄り添いながら笑っていたい
街の風景の中に溶け込んでしまった僕や君は
いつか笑って出会って別れるだろう



『ホットコーヒー』
あったかいコーヒーを
香りが漂って
少しばかり苦くて
喉元をすぎていく
ああ、まだ熱いから
冷めるのを待っている
ホットコーヒーが苦手だから
少しだけ冷めるのを
待っている
その間は香りを楽しんでいよう



『どうにも』
どうにもならないことが増えていく
そのどうにもならなさを引き受けていく以外に方法はどうやらないらしい
僕はそんな時に誰に電話したり話を聞いてもらうんだろうか
僕はそうなった人の話を黙って聞いていてあげれるだろうか
そんなものを持ち合わせているんだろうか
どうにもならないことばかり
どうにもできないことばかり
笑っていたいけどそんなに簡単じゃないよって
言われているような気がしてしまう
誰かが僕に電話をしてきて
誰かが僕に話したいと言って来た時に
黙って聞いてただ頷けるような
優しさに似たものを持ち合わせているだろうか



『逆鱗』
キラキラと光る鱗の輝き
それは水中に届いた光が反射している
一匹が犠牲になってほかの集団を助けるという
人間の死が、魂が海の底に沈殿する
死は塩になっていく
鱗は水中に浮かんでいるか
人の魂は、いや死というものも水中にある
しかし、底にある、地ではなく天に向かわず、海に
逆立った鱗に書かれている言葉は暗号だ
アナグラムであり言葉遊びだ
キラキラと光って輝いている
人魚が泳いでいる海の底にあるもの
人が作りし哀しき人魚と踊っていった魂たち
沈んでしまった底には光が届かない
だけど、忘れてはならないものが逆立った鱗みたいに光っている



『日々、われる』
乾燥している空気
段ボールが指先の水分を奪ってく
奪ってしまうからボロボロになって
指先からカサカサと冬の様子
指先から春はまだやってはこない
ひび割れて、ジリジリする
鼓動がそこにあるみたいな
血の流れみたいなものがヒリヒリと
日々、われている



『鯨歌』
鯨の歌が、骨音と共に聞こえて。
胞子の踊りが、舞いあがった。
さあ、いくつもの時間が屹立した。
「島」から、フランスから、メキシコから、東京から。
2026年、オリンピックもとうに過ぎ去った刻に。
競走馬の蹄が翔ける先に、
騎乗している青年の眼差しの向こう側に、
新しいサウンドトラックが鳴り響いている。
歌っているのは少女と鯨といくつもの時間か....
あるいは修羅の十億年か。



『赤い青』
新しいひび割れの中に芽吹いたものの色は赤
澄み切ったキレイな赤ではなくて
どこか黒ずんでいる赤さ
それは劣情に似ているように
空の青さとと対比するように淀みきっている
だけど、そこから黒さが薄れてしまったら
晴れ晴れとした気持ちでなにも覚えてはいないだろう
覚えていれることはなくなるだろう
赤黒さがドクンドクンと溢れだしていく
肌色の上にラインが引かれていく
青い色なんてないんだ
なぜなら体内に流れているのは
赤と黒
青は頭上か想像のなかにしかない



『猫』
トタン屋根の隙間に猫がいて
昼寝をしている
風は強いが冷たくはない
猫は近づいて一瞥だけして
目を向けてまたすぐに閉じた
太陽はどこか寂しげだ
猫は眠りこけて夢をみている
どんな夢なのか知らないけど
空から魚が落ちてくる夢かもしれない
鰯は青魚じゃない
新鮮な鰯はヒカリものだから銀色に輝いている
猫が見る鰯の夢は銀色の輝きに満ちている
トタン屋根は昔そんな色だったかもしれない
猫は夢なんか見てなかったりするのかも
見ているのは空から魚が落ちてくる夢
いや、猫が空を泳いでいる夢かもしれない
風が吹いて猫を撫でていく



『きっと』
きっと君はもう僕に連絡を取るってことはなくて
僕もきっとそうだし
だけど確かにあの時の時間は大事なもので
君に会えてよかったって本当に思ってる
僕だけかもしれないし君はそんなこと思ってないかもだけど
生活は続いていてやがて人生は終わっていく
どこかで君が幸せならいいと思えるぐらいには
懐かしい存在になってしまった
どこかですれ違ってもきっと知らないふりして
通り過ぎるだろうね僕たちは



『うるう』
うるう年は四年に一度
次は東京オリンピックがある年らしい
それまでにどのくらいのことが起きているのか進んでいるのか
想像の先を行くことばかりだろう
未来はワクワクしているほうがいい
哀しいことは避けられないけど
それでもできるだけ笑っているように
君も笑っていれたらいいねって
遠くで思えるぐらいな平穏な一時を
僕は過ごせるだろうか
ねえ、どうだろうね



『並列』
道玄坂の坂道を上っていく
ラブホテルとライブハウスの町並み
乾いた血がついたナプキンが坂に落ちていた
少子化対策が急がれる国で
ラブホ街でふと目にしたそれ
いつだって生まれては死んでいく
生まれることはないものばかりがあって
隙間を埋めるように見えないけどそれらはある
死んでいった者たちとこれから生まれてくる者たちと
僕らは一緒に生きている
そうならなかった者たちとも
いくつもの時間軸が同時に並列に存在している
すべての時間がゆるやかに交差しているのを想像できるかい



『浅草』
まっすぐな道の先にライトアップされた浅草寺
店じまいした浅草はしっとりしてる
近くにはグレー色の光をともすスカイツリー
東京だけど下町風情が残る町
粋な人たちがいるって感じがする
きっとそれはたけしさんのせいだ
あの優しさには誰も届かないんだろう



『名前を呼んで』
君が僕を呼ぶ時の名前は君と僕の関係の中にある
僕が君を呼ぶ時も同じで
君は僕じゃない人にはなんて呼ばれているのだろう
いくつ呼び名が、名前があるんだろう
その数だけ君の関係性が存在している
たくさんの名前の集合体が君で
僕が知っているのはそのひとつだけだけど
いろんな君がいることが嬉しいし不思議だ
僕じゃない人が君を呼ぶ時に君はどんな顔をして
どんな声で答えるのか僕には一生わからないままに



『ずっと』
いつか来た、そんな気がする道で待っている
太陽は高く車からは好きな音楽が流れていて
天国みたいな気持ちだった
だから僕らはもう死んでいるのかもしれない
君はどうやってやってくるのかを僕は知らない
予定時間よりもだいぶ早く来たから
待っている時間も豊かな気持ちになる
地平線の向こうに見える人影
陽炎みたいに揺らいでいる
もしも、あれが君だったらどのくらいの時間で辿り着くんだろう
僕はのんびりと好きな音楽を聴きながら待っている
ずっとずっとずっとずっと



『ある光』
いくつもの光の柱が立っている
そのどれもが本物で偽物だ
ものの見方を知らねばならない
なにが自分にとって必要であるか
どれが本物であり偽物なのか
それを見極めるための決めるための
光というものと同じ分量の闇がある
まずは闇を見極めるんだ
そうすれば光の眩しさに負けない
光と闇、どちらも自分の眷属にしてしまうしかない
どちらかだけに向かってはならない
だから、だから、だから、
ある光とある闇
共に抱えていけ



『ロブスター』
ある世界ではパートナーを見つけずに独りで生きているものに罰を与える
その罰とは人間から他の動物にされてしまうというものだ
だから、誰もがその施設に送り込まれて45日に以内に相手を見つけようとする
しかし、そうやって誰かを人は好きになれるのだろうか
好意は持つことはあるとして相手が一生いたい人かどうか見極めるのは
無理がある
逃げ出した先には違うコミュニティがある
そこでは独りで生きるということを推奨している
恋愛は禁止されているのだ
そうなれば人は禁じられている故に欲望が増してくる
一度火がついたら欲望は止まらない
男女が互いに好きになっていく過程の激しさ
やはり、いつしかバレる
罪に対しての罰が与えられる
二人はそこからも逃げ出す
女に与えられた罰とそれを受け入れようとする男
男が選んだこと
すべてが美しくて残酷であるということ
世界とはまさしく盲目であり
失うことと得ることは同時に起こりうる



『テリーヌ』
甘ったるいというと当然じゃないのと言われる
テリーヌとはとても甘いものだと知らなかったから
冷たい水の喉元を通るとその甘さがよくわかる
暖かいコーヒーを飲むとその甘さがとてもわかる
甘ったるというのは褒め言葉だと思っていた
知らないことばかり
テリーヌは甘くて美味しいもの
水の美味しいお店はなにもかもが行き届いていて優しい



『シャッター』
顔には生き様が出る
ただ見栄えがいいとかじゃない、年輪みたいなもの
男だったらどこか悪さがあるほうがいい
無理やりではなくてその人の一面として
それがどこか溢れ出ているような
女はもういろんなものがあるから
おっぱいだとか体の曲線とか
性交してるようにシャッターを押す
切り取る
時間を
人物を
世界を
自分と被写体の関係性を切り取る
極楽と地獄を行き来して射精する
アラーキーの写真はアートさも忘れない
エゴとエロがあるから
ズシンときてエロティックだ
性交と極楽と地獄
女陰の先にあるのかそこから出てくるのか
ただそこにあるのか



『愛のようだ』
愛と恋はどう違うのかと言われたら言葉が違う
恋はきっといろんな場所に咲きかけるし彩られている
恋から愛に変化することはあるんだろうか
次元が違うような気がどうもしてしまう
愛とはそう容易くたどり着けるものだろうか
結婚して子供ができて家族になったら恋の名前は愛に変わるのだろうか
たぶん、みんなそう思いたいだけだしそうならないと気持ち悪いのだ
出会った瞬間に恋に落ちることはあるだろう
愛に落ちたら人はどうなってしまうのか
きっとかえってこられないものを愛と呼ぶんだろう
そして、それは通り過ぎた季節のように
過去形でしかない
愛するという現在進行形はどうも嘘くさい
愛してたという過去形はもう触ることのできない真実味がある
愛のようだ
愛するようだ
愛してたようだ
南極で氷河に閉じ込められたままのマンモス
氷から取り出せばその肉体はバラバラになってしまう
きっとそんなものだ
刹那の中にしかないのならばそれは過去形の想い
愛のようだ



『雨球』
スローモーションみたいに雨があがる
一粒ずつが地面から空に戻るように
逆回転している
空に降る雨はレーザー光線みたいに真っ直ぐな軌道
雨だけが時間を遡っているのに世界の時間は進む
次第にすべての水分たちが地上から球のように浮かび上がり
どんどん集まって大きな水溜りになって宙に上っていく
やがて僕の体からも水分が溢れ出て
地上からすべての生物が消えた



『いい方に』
空が白と黒にわかれていたのを見た
大きな揺れが起こって
近くの高いビルがグルングルンと回るように揺れていたのを見た
目に見えないものへの恐怖とか
平凡な日常は変化した
街の灯りは落とされて暗がりが増えた
日々が過ぎていろんなものを忘れていく
忘れてはいけないことも忘れてしまう
それでも忘却してはならないこと
あの日、心細くてやっと会えた大事な人を
抱きしめた温もりはとうにないけど
いつだってこの日が来れば思い出す
平凡な日常になっているような錯覚
あの日があって変わらなかったことも
苛立ちも続いている
温もりはいつか失われる
大事な人は急に奪われるかもしれない
だから、いつも少しぐらいの余裕を持って
大切な人たちに優しく接すれるように
いつか終わるなんて寂しいことを言うなって
君は言うかもしれないけど
なにもかも有限なんだ
だからこそかけがえないのものなんだ
ずっと後悔し続けるし世界はいいようには変わらないかもしれない
そんな時でも微笑んで少しでもいい方に
いい方に
もっともっともっともっと



『浮かぶように、日々』
見えるかい
いや凝視できるか
いちばん遠くの音を意識できるかい
すぐそばにいる人の温もりを感じることができるかい
浮かぶように、日々がある
いや地に足をつけて生きている
たまに、ふいに、宙に浮くように
非日常っていうか物語に接続するように
浮かんでいる
君と僕はその刹那だけ浮いている
戻れない時間だ
浮かぶように、日々



『プールサイド』
夜のプールに忍び込んで
水面はライトと月に照らされていて
甘酸っぱくて淡い想いが揺れるように
少女がプールに飛び込む
少年はプールサイドで見ている
水から顔を出した少女は髪を直すようにして
少年を見ている
その眩しさに少年は波打つ水面に目をそらす
すぐに少女を見返すと彼女はまた潜っている
飛び込もうと思う
彼女を捕まえないといけない
少しの助走で飛び込む
大きな波紋で水面に映った月が割れて揺れる
少年が水面から顔を出す
少女も顔を出す
ふたりが笑うように波紋がプールをゆく
いつだってそんなシーンは作られていく
あのワンシーンがいつだって時間を巻き戻すように



『春雨』
春の雨はこの先のことを思い浮かべるのがいい
桜が咲いて新しい季節になるから
この寒さの向こう側には暖かい穏やかな時間がある
もう少し雨宿りしていよう
もうすぐ桜が咲く、その頃までは



『Re:Re:』
後悔は先に立たないと言うけど
やってみて顔が赤くなるような小っ恥ずかしさ
多少の後から笑える程度のことは
なんだかんだ言ってもやったほうがまだマシだし
ずっと生きていったって後悔しかどうせ残らないなら
少しでもやってみて失敗したことのほうが
まだマシだろう、その時はクソみたいに項垂れても
たいていのことは失敗して落ちていくものだから
たまに空を舞うカイトのように風に乗るかもしれない
うまく飛べることもあるだろう
なんとか成功するのがベスト中のベスト
うまくはいかないよって笑いながらも
うまくいくことを願ってんだ
僕の知ってる人たちが笑ってる世界がいい
できるだけ笑っていてほしい
そのためには同じような日々の中で
迫り来る判断で道が分かれていく時に
いい方に向かって、後悔しないほうに
うまくいくことを願ってんだ



『君の顔』
白い手と白い手がからみあう
首筋に触れる唇はあたたかくてくすぐったい
ベッドの上で眠るようにおちていく
素敵な夢を見れたらいいのにね
目が覚めるまで一緒にいよう
それを君がなんて呼ぶのかはわからないけど
愛おしいという気持ちが体のすみずみまで行き渡る
あたたかい気持ちだけがすべてで
なんだかくすぐったい
眠りに落ちる前に見た君の顔が
目が覚めたらそこにあるという幸せ



『つぶす』
グヂャと手のひらでつぶれる
水分を感じる
嫌なものを潰したが嫌なものの存在感は増すばかり
グヂャとする感触はいやだ
嫌いなものだから力で変えようとしても
残影みたいなものが残ってしまう
嫌いなものは姿を消すような展開か
好きになるしかないのかもしれない
時が経てば変わることもあるのだから