Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

「君たちの居た時間」

likeaswimmingangel2008-04-27

 「ボーイズ・オン・ザ・ラン」の最新刊9巻と「多重人格探偵サイコ」12巻を買って読む。
 「ボーイズ〜」は「非モテ」系男子の話で笑えるけど痛い。悲し過ぎて笑えてくる。自分が主人公・田西だったら笑えないに決まっている、でも笑うのは彼の気持ちがわかるから。田西も泣きすぎてどうしようもなくなって笑っている。


 僕の9巻のレビューとしては、


 昔好きだった子と何の因果か再会、めんどくさい展開。今好きな子を追いかけてきたのに、その子とラブホ。
 やりたい気持ちとやれない気持ち、板挟み、でも性欲が。ぎりぎりの所で踏みとどまる田西、ああ田西さん泣けてくるよ。
 最低な僕らと最低な女の子、うまくいかないことだらけ、でも・・・。 好きな子としかしたくないんだって起ったままで言ったって。
 「ボッキしながら説教しないでよ」 「ディープキスもフェラもされておいてバカじゃないの」 「全然説得力ないわよ」「お金。フェラしてやったでしょ」
 ああ、痛い、痛過ぎて逆に笑えてくる、悲しいまでにわかるこの感じ。悲し過ぎて笑えてくる、にぶい痛み。

 それでも僕らはこの現実で生きていく。


 と言った感じです。


 今好きな人を追いかけてきたのに昔好きだった女性・ちはるに再会してしまって・・・。
 読んでない人にはわかりづらいかもしれないがこのちはるがくせ者だ。きっと現実世界にもいる、そして多くの男子が惑わされているだろう。ラブホでやりかけるが田西は今好きな子のためにできないとちはるに言うのだが。


「ボッキしながら説教しないでよ」 「ディープキスもフェラもされておいてバカじゃないの」 「全然説得力ないわよ」「お金。フェラしてやったでしょ」 と言われる。少しだけ笑えてその後すごく凹む、わかるよ田西。お前は間違ってないんだ。


 この感じはこの前書いた「週間真木よう子」の「中野の友人」の回と同様の痛みだ。
 この痛みはほとんどの男子に共有されるものだ。女性にはわかりづらいかもしれない。想像はできると思う、でも本質的な痛みはわからないと思う。男性の性的な問題と理性の戦いだから。だって、僕らが生理の辛さがわからないようにこの痛みは女性にはわからないと思う。わかりたくても体と脳の働きは違うのだから。


 で一方の「サイコ」は僕が高校の時から連載してます。僕は兄が読んでいたので大塚英志×田島昭宇魍魎戦記MADARA」シリーズを読んでていてその流れでこの作品も読み始めました。
 当時サイコものブームだったし、多重人格ブームだったような気がします。僕は大塚英志関連作品はたいがい読んでいて、大塚英志の批評も読んでいますが、日本はアメリカでブームになったものが遅れてやってくると書いてあったような気がします。


 多重人格だと言う人もこの頃に爆発的に増えてたようです。昔日本には多重人格ってものはなく、狐憑きがそれにあたるものだったらしいのですが。
 「MADARA」シリーズはその後、名前を変えて「僕は天使の羽を踏まない」という名前で出版社も変わって思春期に見たある種の夢のような終わり方をして終わってしまいました。ファンには不評でファンにとってはやはり終わりきれていない、見たかった未完のいくつかの話が終わるまでは終わりではないのです。


 「MADARA」シリーズは手塚治虫どろろ」と三島由紀夫「豊穣の海」シリーズが元ネタでした。輪廻転生というのが大きな主題でしたが、物語自体は未完のままです。そして始まった「サイコ」シリーズも早10年以上です。次の巻が出るのが余裕で1年以上とかがザラにあって未だに13巻でようやく物語の最終章に入りました。


 田島昭宇という漫画家のレベルの高さがあったから成り立った物語でもあるし、大塚英志のある種のアイロニーも含めた多重人格的な物語も引き込まれるのですが、いかんせん長い。10年以上ははやり長い・・・。
 大塚英志はかつてライトノベルなどを思春期における「ライナスの毛布」と呼び、「サイコ」もしかり。やがて捨て去る時期が来るのだと言っていた。
 大塚氏は「文学と呼ばれるもの」へ向かうためのヒントを彼の作品に忍ばせていると後書きに何度か書いている。そこから村上春樹中上健次サリンジャー大江健三郎の作品へ出会える読者がいることを期待していると。


 僕もその中の作家の何人かを読み、時にはハマり、時にはつまらないと投げ捨て、僕は僕なりの、僕が好きだと思える作家を少しずつ探せるようになった。そういう流れを作ってくれたのは大塚英志作品であるのは否定できない。
 僕は未だに大塚英志作品を読み続けているがそれが「ライナスの毛布」ではなく単純に読者として面白いと思うからだ。
 

 12巻のFILE73「君たちの居た時間」という章のタイトルがすごくいいなと思った。誰かの小説のタイトルなのだろうか?
 スニーカー文庫から最初に出た「多重人格探偵サイコ」の文庫版の一巻のタイトルが「情緒的な死と再生」で各章のタイトルが「遅れてきた少年」だったり「個人的な体験」や「洪水はわが魂に及び」で大江健三郎
 二巻のタイトルが「阿呆船」で章タイトルに「灰色のコカ・コーラ」や「異族」で中上健次

 
 「君たちの居た時間」ってすごく染み込んでくる言葉だな。

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