Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『クソ野郎と美しき世界』感想


クソ野郎と美しき世界」観客動員15万人突破!稲垣、草なぎ、香取が感謝のコメント
https://natalie.mu/eiga/news/278104

 15万人突破すごい、おめでとうございます!ですね。さっきまでいつも行くカフェのカウンターで常連さんと話をしていて、この映画の話になって自分が感じたことをお話ししたらすごく観たくなったと言われたので、初日の舞台挨拶中継の時に書いたブログよりも細かい感想をブログに書いておこうと思った。


 まず、最初の園監督の『ピアニストを撃つな!』は序破急でいうと序の部分ぐらいだけの展開で、園さんの作品らしく叫びながら走っているシーンはやはり園さんの色がある。同時に稲垣吾郎浅野忠信・馬場ふみかというメインの3人の「愛している」という叫びがあるのだが、彼らは互いにほぼ一目惚れ、こいつしかいないみたいな始まりなので観客としては短い流れの中でひたすら叫んでいるからどこか乗れない人がいるのかもしれないと思っていた。だが、この叫びこそ「新しい地図」を応援している人たちが稲垣吾郎草磲剛香取慎吾というSMAPだった三人、ジャニーズ事務所から飛び出た彼らに対しての思いを代弁しているのかもしれないと考えれば非常に納得できる。
 園さんは稲垣さんとピアノでの組み合わせをして欲しいと言われて脚本を書いたのかもしれません、その辺りは調べてもいないし聞いてもいないので確認できませんが。園さんらしさは『アンチポルノ』からの衣装や髪型、部屋の中のビビッドな色彩によく現れている。園さんには稲垣さんともっと長い作品を撮ってもらいたいという気持ちが湧いてきたのも正直な所。タイトルにあるようにラストシーンでピアニストである稲垣さんの手がハンマーで潰されるという瞬間で終わる。ピアニストから手を奪ったらもう音を鳴らせない。そう、彼らは音楽をある意味で奪われてしまった。


 山内監督『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』は短編としてまとまりもよく、香取&新人の女の子がメインですが彼女の歌喰いという設定だった。かなりポップさがある。山内さんがGrasshoppa! VOL.1『ボヌールハイツ』を撮っていたことを知って当然だなわと納得した。こちらも内容的には歌喰い少女に歌が喰われてしまい歌えなくなっていく世界、プラス香取さんの絵を描くというポップでカラフルなものも喰われてしまい色彩が奪われてしまう。最後に少女から出たものはカラフルさがある。それは最後の『新しい詩』で一つになって、また香取慎吾に再吸収されて行くことになる。この最初の二作はSMAPでなくなってしまったことで彼らがSMAPの歌が歌えなくなってしまったことを作品の中で表している。このことは無意識に観ているファンの中に染み込んでくる。


 三本目の太田光監督『光へ、航る』は前の二作からは一転してシリアスな内容になっている。亡くなった子供の右手を移植された子供を夫婦(草磲&尾野真千子)で探しにいくロードムービー風の作品。移植された手を持つ子供を見つけるまでの流れはかなりご都合主義すぎるし、子供が巻き込まれた事件を解決した理由がかなり強引でもある。ただ、クライマックスでの移植された子供と草磲さんのやりとりがタイトルにかかっていてうまくまとめられるので違和感はない。こちらは自分たちが失ってしまったものがどこかで誰かが引き継いでることを認めながら、自分たちはもう違う人生を歩むのだという強い意思表示が感じられる。かなりコンセプチュアルに作られていることがわかる。


 最後の児玉監督『新しい詩』はミュージカル的な作品になっている。前の三本における失われたものがここに集結して行く。彼らは歌い踊り、カラフルな世界がそこにはある。そして、前の三つの後日談みたいなものを出していき、音楽が鳴りながら三つをうまくまとめていくのである種、力技だし強引に見える収束ではあるが監督の手腕が問われる。
 ここでのダンスと歌によって観客には不思議な高揚感が起こる。『ピアニストを撃つな!』『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』『光へ、航る』が示していた稲垣・草磲・香取の三人が奪われてしまったものを取り返すのではなく、新しくスタートするという意思表示がそこにはある。だからこそ、力強く彼らを応援したいというファンの方はより彼らを後押ししたいという気持ちが湧き上がっていくことになる。
 ここまでのものを作り上げた人たちが彼らと共に映画を作る側にいることはとても心強いはずだ、制作期間もさほどなかったはずだから。


 僕は初日に15万人は無理なんじゃないかなって思ったのが正直な所です。しかし、今劇場で観るべきだと水道橋博士さんが自身のYouTubeでコメントされているのを見てこの作品にある現在性みたいなものに大きさに気づきました。「平成」という時代を代表するSMAPという国民的グループの解散という物語を見てしまったからこそ、この作品におけるバッググランドはほぼほとんどの日本に住んでいる人たちはわかっている。だからこそ、この作品を劇場でリアルタイムで観ることに意味があるはずです。ここから始まるということはやっぱり次に彼らがどんな作品を作るかということに興味がいきます。今回の15万人突破でより彼らは歌い、踊り、演じることが自由になっていくはずだから。