監督:真利子哲也
脚本:真利子哲也、喜安浩平
出演:柳楽優弥(芦原泰良)、菅田将暉(北原裕也)、小松菜奈(那奈)、村上虹郎(芦原将太)、池松壮亮(三浦慎吾)、北村匠海(健児)、岩瀬亮、キャンディ・ワン、テイ龍進、岡山天音、吉村界人、三浦誠己(河野淳平)、でんでん(近藤和雄)他
柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎ら若手実力派キャストが集結し、愛媛県松山市を舞台に若者たちの欲望と狂気を描いた青春群像劇。「イエローキッド」「NINIFUNI」などで世界的注目を集める新鋭・真利子哲也監督が商業映画デビューを果たし、「桐島、部活やめるってよ」の喜安浩平が共同脚本を担当。愛媛の小さな港町・三津浜の造船所で暮らす泰良と弟の将太。いつもケンカばかりしている泰良は、ある日突然、町から姿を消し、松山の中心街で強そうな相手を見つけてはケンカを売るようになる。そんなある日、裕也という青年から声を掛けられた泰良は、裕也と一緒に通行人に無差別に暴行を加え、車を強奪。その車に乗りあわせていた少女・那奈も巻き込んで松山市外へと向かう。(映画.comより)
日曜日、18時40分の回。テアトル新宿にて。以前から予告で観ていて気になっていた作品、クドカン脚本『ゆとりですがなにか』でも存在感を出している柳楽優弥だが、前からこの作品については試写で観た人からの絶賛もあり観に来た。
ただ暴力というものだけでそこに快楽があるのか意味があるのかもわからないが、芦原泰良は町中でどんどんケンカを売っていく、最初はやられたりもするがしつこくひたすらに挑む、観ていると少しずつ強さを増しているのがわかる。あととんでもなくしつこい、ボコボコにされても相手の足にしがみつく、諦めが悪いのかないのか。死を恐れている様子がない。だからこそ、勝ったはずの相手も畏怖する。存在そのものが狂気の中にあり、相手にすることはそちら側に引っ張られてしまうことがわかる。芦原泰良を殺してはいけない、人殺しになってはいけないという無意識の気持ちがあると彼に飲み込まれてしまう。
芦原泰良が北原裕也に付きまとわれるように物語が動き出し、二人が奪った車に那奈が人質のようになり三人での逃避行が始まる。北原の傍若無人のような態度、自らに力はないのにケンカが強い泰良といることで自分も強いと錯覚する哀れさ、彼は女を殴ったり那奈を力で支配しようとする。自分より弱い立場の者に暴力的な存在になり、観ていて哀れになってくるが多くの観客はおそらく彼の立場になりうる。不気味で話すこともほぼなくただケンカをしていく、感情を見せない泰良のような人間はあまりいないだろう。那奈の怒りが爆発するシーンでは今まで観たこともない小松菜奈が観れたような気になった。
北原が動画を商店街で撮りながら歩いている女性に暴力を振るうシーンから何かが明らかに変わる。それまでの芦原泰良のケンカシーンとは違うものが観客に投げかけられてくるような気がした。そこに映っているものとそれを撮影している者に対しての嫌悪感のようなものがあり、今まで彼らの暴力をスクリーンで楽しんでいた観客に「気分はどうだい?」と意地悪な視線を投げかける。
向井秀徳の音楽と共に松山という地方都市のが鈍く光りながら暗闇から光る目にみつめられている。暴力はそこにあり、暴力でしかない。生むのは痛みと憎しみと傷だけ。
芦原泰良、北原裕也、那奈の三人に『ワールド・イズ・マイン』の主人公たち三人が観ていて私の中で重なってきた。何かが重なったとしか言えない。
そして、この映像に漂う気配は中上健次的な土着的なものが感じられる。現在で中上健次的な物語を映像でやるならばこういうものになるのだろうか。
暴力はそこにある。ただそれだけ。