Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『火花』


 『文學界』掲載の又吉さんの『火花』読了。
 先輩芸人と僕の何年間を書いた中編。小説は基本的には作家の顔は浮かばない。「僕」と書かれても書いている作家とイコールではないが、しかし芸人である彼が若手芸人である「僕」と書けば浮かぶのは現在の又吉さんであり、彼の過去のように読めてしまうその構造、メタ・フィクション要素はやはり強い。
 顔が見えている作家が書くメタ要素がある小説は半歩ズレているような、現実と虚構を往き来しやすくて密度がある。加藤シゲアキ『グレーとピンク』が素晴らしかったようにアイドルがアイドルを書き、芸人が芸人を書くときの現実感と多くの人が知りたいであろうその世界の裏側なんかがエンタメとして機能する。又吉さんが小説好きなのは有名だがやはり資質は純文学なんだなあと感じさせられた。
 どこかで又吉直樹×加藤シゲアキ対談すれば面白いはずだ。


 僕たちはいろんな出来事をメタとして消費しパロディーにして、二次創作の先のn次創作が当たり前の世界に生きている、いかに「私」というキャラクターを演じながら、それぞれ別の相手に違う「私」があり細分化された自意識の集合体でしかないことを自覚さられていく日常に物語が意味を持つのか。そのヒントにもなると思う。

文學界 2015年 2月号 (文学界)

文學界 2015年 2月号 (文学界)