御茶ノ水で降りて明大の御茶ノ水校舎っていうかアカデミーホールに向かった。GPSのナビに従って着いたらどうも違って行き過ぎていた。しかし、デカいなあ、広いなあとしか思えない。
初めてだと全然わかんないな、専門学校は井の頭線の明大前近くで明大前通っていたけどこうやって大学に入るのは二十代の時の只石の撮影手伝いに早稲田に行ったぐらいかもしれない、ああでも宇野さんの講義というかトーク聞きに東工大だっけ、行ったか。いつもそういう縁のない場所にいくとなんだか迷子になってしまう、一年だけ大学に行っていたけどたぶんデカすぎる場所に慣れないのだろうな、これからもずっと。
朗読劇 『銀河鉄道の夜』 2014夏 東京特別公演を観るためにバイトを早上がりしてできるだけ急いだけどまあ迷子で思ったより時間がかかってしまった。三階というか公演のホールに着くと古川さんの奥さんのチエさんや寺島さんや綾女さんが受付にいて浦谷さんもいらした。
挨拶もそうそうに席を確保しに中へ入ると確かにかなり広い場所だった。あれって全席でどのくらいあったんだろうか三百とかもっと入るのかなあとトイレ行ったりして時間を潰していた。
いつもより広い空間(舞台)での公演だったのでその広さをどう使うかということに古川さんたちは頭を悩まされたのかもしれない。
最初はイスを何列か縦に並べることで車内の感じを出されていた。そういう部分でも最初から違う感じがあった。といってもいつも広さも場所も都合も違う場所での公演だったりするのでその都度、バージョンが変わっているというか臨機応援に対応されているのだと思うけど空間をどう使うかというのは古川さんが演劇をやっていたからこそできるのかな、僕はそういうことをしたことがないのでイメージするしかないのだけど。たぶん、そういう空間把握能力と空間利用能力が高いのかなといつも観ながら思う。
冒頭の河合監督の映像は鳥のイメージが、羽毛の落ちる感じとかだったけど終わった後に河合さんに聞いたら古川さんに鳥のイメージでみたいなことを言われてとおっしゃっていた。
確かにこの特別公演のポスターも鳥が描かれている。時間が経っていろんなものがもう自由になっていくあるいは忘れられていくように羽ばたいているそんな感じなのかな。
河合さんの映像は朗読劇の宮沢賢治の世界ではなく現実であってそれがこの空間をギュッと引き締めるような輪郭を確かにしているように見えた。小島ケイタニーラブさんが最初に歌うフォークダンスとその河合さんの映像のコンビネーションは鳥肌もので冒頭から泣きそうになった。そこから幻惑的な銀河鉄道の夜が始まった。
心地よい声と音に揺れながら僕らも乗客として物語の宮沢賢治の世界を進んでいく。
『朗読劇 銀河鉄道の夜』は何度も観ているのに最後の結末に驚く、最後を忘却している。幻惑的な世界に漂い、そこに浸るからか戻れてないのか。古川さんの小説みたいだな、と思う。
時間を描くために、声が聴こえてくる、音が鳴っていて、見えないものが感じられるねのがわかる。
ひとりの小説家とひとりの詩人とひとりの歌手とひとりの翻訳家が作り出す宮沢賢治の世界、そこにそれぞれのリスペクトやオマージュや創作としての返答があり、古川日出男という作家が脚色したあの日、3月11日に起きた大きな地震とそれが引き起こしたというかむきだしにしてしまった、あらわにした無責任だったり何ら対策もされていなく、どうしようもなくなってしまった世界への、息苦しさと哀しみの世界に届ける言葉と音、舞台にいる四人の動きがとても静かに時を綴るように物語は進んでいく。
いつも僕はこの朗読劇を観るとうとうとしてしまう。気持ちいいからだ。声が音が、なにか静かな穏やかな場所に導いてくれるみたいで、だけどそちらに完全に落ちてしまっては物語の続きを見れないジレンマが、ああ、これは子守唄なのだと思う、幼い頃に母が歌った子守唄や読んでくれた童話に似た温度があるのだろう。
菅さんのどっしりとしているの優しい声と佇まい、柴田さんの冷静さを持ちながらも動き回るおかしみ、小島さんの奏でる心象風景みたいな音と穏やかな笑み、古川さんの多層的な声とまっすぐな瞳、そしてそれを支えて公演を成功させるために全力を尽くされたすべてのスタッフの皆さんの想いが祈りのようにあの舞台の中で光と音としてあった。
あたたかいそれは観ていた人に届いたはずだ。「光の速度で祈っている」は古川さんの短編のタイトルのひとつだがそういうものが確かにあったと思う。だからこそ神には届かなくてもあの場所にいた人には届いたのだと。
終了後に古川さんにご挨拶して記念写真を。タイミング的に古川さんの目がw
出演者の皆さんも関係者の皆さんも大変お疲れ様でした。なんだけど終わった後のロビーの雰囲気や笑顔とかはすごい伝わってるのがわかるし素敵だなといつも思う。
終演後にロビーで知り合いの方々とご挨拶もできたし、古川さんや菅さんに小島ケイタニーラブさんに柴田さんほんとうに愛されてるなあと思う空間があった。それだけのことをされているのだけどあの優しい空間や雰囲気が満ちているということは本当に、本当に素晴らしいのだと思う。
- 作者: 古川日出男,管啓次郎,柴田元幸,小島ケイタニーラブ
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2013/09/24
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