Spiral Fiction Note’s diary

物書き&Webサイト編集スタッフ。

『はじまりのみち』

半蔵門線にゴトゴト揺られて錦糸町に。『水道橋博士のメルマ旬報』の連載陣でもある柴尾英令さんが観た後に絶賛されてて、同じく連載陣でもある作家の樋口毅宏さんも前から推していた作品だったので行こうと思ったら近くでやってなくて錦糸町に。ほぼ年配の方ばかりでしたね。



監督・脚本/原恵一
キャスト/加瀬亮木下惠介(正吉)、田中裕子・たま、濱田岳・便利屋、ユースケ・サンタマリア・木下敏三、斉木しげる光石研濱田マリ山下リオ藤村聖子松岡茉優相楽樹大杉漣宮崎あおい


二十四の瞳」(1954)、「喜びも悲しみも幾年月」(57)、「楢山節考」(58)など数々の名作を残した日本を代表する映画監督・木下惠介の生誕100周年記念作品で、木下監督の若き日の姿を描いた人間ドラマ。戦中、脳溢血で倒れた母を疎開させるために2台のリヤカーに母と身の回りの品を積んで山越えをしたという実話を軸に、血気盛んな映画青年として軍部ににらまれ、松竹を一時離れるきっかけとなったエピソードなどを盛り込みながら、母子愛の物語を描き出す。アニメーション映画「カラフル」「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」などで高い評価を受ける原恵一監督が、自身初の実写映画に挑戦。木下惠介役に加瀬亮、母親たま役に田中裕子。(映画.comより)



原恵一監督×加瀬亮 「はじまりのみち」を辿って見つけた木下惠介の“実像”
http://eiga.com/movie/77559/interview/


木下惠介さんの名前ぐらいは僕でも知っていたがきちんと作品を観てはいなかった。僕が認識したのは、作品の『二十四の瞳』などはさすがに知っていたが監督の名前を知ったのは樋口毅宏著『二十五の瞳』だと思う。
生誕100周年記念作品ということで作品を観てないとわからないかなと思ったりしていたが基本的に問題はない。おそらく木下作品をきちんと観ている人には映画の中のいろんなシーンや台詞が何かの作品に結びついたりするのだと思う。そういう意味でいえばデータベース消費作品ともいえるだろう。木下作品の映像も使われているし最後には木下監督が松竹に戻ってからの戦後に発表した作品の名場面が映されていく。


この『はじまりのみち』という作品は時間軸というよりも物語自体はほんの三日ほどの話になっている。東京での空襲など過去の出来事も挿話されていくが物語自体は戦争中に自分の表現と国の統治下にあった映画業界では自分のやりたい表現はできずに会社を辞めた木下が田舎の母を戦火がきびしくなる中でさらに田舎に疎開させるためにリアカーに乗せて兄(ユースケ・サンタマリア)と便利屋(濱田岳)と疎開先にまで行くという、それだけの話でもある。



しかし、加瀬亮ユースケ・サンタマリア濱田岳も田中裕子も素晴らしい。途中で木下が見た学校の先生、これがのちの『二十四の瞳』のイメージと映画の中ではかさなりその先生でありナレーションをしているのが宮崎あおいだがこういうワンポイントでの使い方の方が彼女は映えるのかもしれないと思った。


木下と便利屋が話すシーンでは自然と涙が流れてしまった。便利屋は木下が映画監督とは知らず、東京の映画館で働いてたと思っている。便利屋は木下に彼が作った『陸軍』のラストシーンについて語る。あんな映画また観たいなと。作り手が受け手から自身の作品について好意的なことを言われるときに救われたと思うような、あの瞬間に木下が泣いてしまうのは当然だと思うしとてもいいシーンだった。母親との関係性などもいいのだけど母が最後に彼に託すメッセージも泣きそうになってしまった。


派手さはまったくないけども誠実に作られているのが観ていて伝わってくる。原恵一監督がどれほど木下恵介監督を好きなのかがわかるというそれがもうこの映画のとんでもない強みだ。

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二十五の瞳

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