そろそろはっきりさせておいた方がいいだろう。
これはいかにして終わるか、終わらせるかという物語だ。
それが主題だ。
物語には主題ってやつが本当はあるべきだってことをお前たちは誰からも教えてもらっていない。それどころかお前たちは既に主題も意味も失われ、その「何もないもの」にただ身を委ねていることにさえ気づいていない。
何故か?
それはお前たちもまたあらかじめ「何もないもの」として始まったからだ。お前たちはかつてそこに物語や主題や意味があり、そしてそれが崩れ去っていったことを知らない。失われた場所で生きているのに失われたことを知らないで生きている。なるほどそれはお前たちのせいではないかもしれない。確かにお前たちは遅れてきた。だが若者はいつだって遅れてきた青年だ。俺たちだって俺の親たちだっていつも何かに間に合わなかった。だが、その間に合わなかった痛みというものを抱えて生きるっていうのはそんなに悪いことじゃない。
何の話だ?
年のせいだか説教を始めると長くなる。そして何を言っているのかわからなくなる。
そうだ。
俺が語りたいのは終わらせることについてだ。俺はただの物語の中の人物に無論、すぎない。だから物語は物語の外にいる奴らによって一方的に終わらせられる。それだけじゃない。時には先送りされる。どちらにせよ正しく終われずに、だから世界は終わりそこねた物語で満ちあふれている。しかも物語に終わりを宣告するのが作者で、終わりそこねたのは単にそいつの語り手としての力量のなさであればまだ許せる。だが終わりや先送りを一方的に宣告するのは雑誌のアンケートやTV局の都合やメディアミックスの日程なんていう物語の外側の勝手な事情であり、俺たちにしてみりゃ本当に知ったこっちゃない理由によってだ。とは言えそれはそれで人生ってやつに似ていると言えなくもない。死にしたって挫折にしたってそれは当人の意志や希望によってもたらされるのではなくいつだって不意に訪れるものだから。その身も蓋もないことをせめて神様のおぼしめしとでも考えなかったら人はやっていけなかったから山ほど宗教を作り、神が死んでしまった後は同じようにわけのわかんねー思想を山ほど作り出さなくてはならなかったわけだ。だがその不意に訪れる終わりというものは別に神の意志でも哲学的な啓示でもなく、ただのメディアミックスの都合だったりするとしたらお前ら、どう思う? お前たちはたまたま俺の生きる物語の外側でのうのうと生きているが、お前たちだって誰かの物語の手駒でそんでもってその誰かさんのメディアミックスの都合で突然殺されちまったり、あるいは世界ごと終わらせられちまったりするかもしれないんだぜ。考えてみろよ。神が角川書店で、しかも奴らは俺たち以上にバカなんだぜ。たまたま物語の外にいるからてめーの都合で終わりや先送りを宣告できる。理不尽だろ、俺にしてみりゃよ。でも、繰り返すがお前たちだって同じなのかもしれないってことなんだよ。お前たちの現実の外側に角川書店のバカ編集者どもがいてメディアミックスやってる。やだろ? 無論これは文学的な比喩って奴だがな。そういうことを一度ぐらいは考えておけ。
だから俺は俺の物語を俺の意志で終わらせることにした。それが俺の物語の主題だ。よく頭に叩き込んでおけ。
大塚英志著『多重人格探偵サイコ・フェイク』(2002/7/5)
自分の書いている小説の参考に家にありだいぶ前に読んだこの小説を久しぶりに読み返したのはコミックの『多重人格探偵サイコ』の16巻が出たからで、そもそも僕は小学生の時に兄が読んでいた影響で『摩陀羅』を読んでいた。
『壱』と『弐』(のちに『BASARA』)と『赤』シリーズ、高校の時に近所の古本屋で見つけたのは大判コミックで出ていたそのシリーズが全部カドカワコミックス・エースとして『壱』シリーズに至っては三回目の版元が代わったリニューアル版が『壱』『BASARA』『赤』『転生編』が全部まとめて売られていて即買いをして『サイコ』一巻が出ているのを知った。
そこからもう十四年近く連載されコミックが出ている『サイコ』を読みながらも原作者である大塚英志関連も読んでいたから、二十代中頃から出会った社会学というか人文系の人達と近からず遠からずな場所にひょいと居れたりするようになっていた。
物語にハマりだしたきっかけの野島伸司脚本『未成年』の廃校立て篭りの元ネタというかモチーフは連合赤軍のあさま山荘事件であったし、この『サイコ』シリーズの小説版でも連合赤軍をモチーフとした設定がある、漫画版では裏設定としてあるが描かれない。
現実に起きた事件をこうやって創作に中に溶かし込んでいく方が僕は正しいような気がしている。というかそれが真っ当な創作者の姿勢であるとも思う。フィクションとノンフィクションが混ざりこんでその「物語」から受け手が自身の「物語」や「世界」をどう考えるか受け取るかが「物語」の価値であると思う。
僕が二十代になってから園子温さんや古川日出男さんに惹かれたのは彼等の真摯な創作態度とその作品にある現実との関わりかたが僕に響いたからだ。
最近観始めたけど深夜にやっている『輪るピングドラム』なんかも95年のあのテロ事件がある種モチーフになっているようだと聞いて2クールになってから見始めたけどもとても興味深い物語になっている。主人公の高倉三兄弟妹の親がどうもそれに関わっていたらしいというのが匂わされている。その事件の被害者になった女の子の友人たちが彼等に関わってくる。
【輪るピングドラム15話】少年よ我に帰れ【新OP】
実際は何かが作られるときはそれがドフィクションだとしても現実の反映になるからノンフィクションが溶け込んでいない創作なんてもちろんないわけなんだが、その強度というか密度というかある人には響くけどある人には響かないみたいなアンテナがあってキャッチできるかどうかとかも重要なファクターだと思う。
↑の大塚さんを人生で初めて生で見てお話を聞いてきました。まあ大塚無双凄かったなあ、挨拶したかったけどできなかった。いつか自分の作品が出たら読んでもらいたい、きっとボコボコにされるだろうけど。
KAI-YOU presents「震災後を語る――擬似的戦後の思想/文学」
http://d.hatena.ne.jp/likeaswimmingangel/20111030
最近は書いている作品に関連もあって『ふしぎなキリスト教』『平成宗教20年史』という新書を読みました。僕は無宗教だけど宗教というもののシステムやそれに信仰する人には興味があります。
あと最近面白かった新書は速水健朗著『ラーメンと愛国』で、戦後のGHQの占領下であった日本に本国アメリカで余った小麦粉を売るために小麦粉を消費させるためにした活動、それがパン食とラーメン文化に繋がっていったという第一章は阿部和重著『シンセミア』が元ネタらしく、僕も読んでいて『シンセミア』が浮かびました。『シンセミア』の主人公の家系は戦後からパン屋を営んでます。
もちろん日本とアメリカというものを描く時に戦後の文化戦略でアメリカ的生活を受容しアメリカ化した日本を描くのにそれは適している職業であり、それはラーメン屋でもなりたったのかもしれません。
K−POPブームに一気に持って行かれたこの数年を見ると僕みたいな天の邪鬼な人間はアメリカ文化を許容した韓国によってまた日本はアメリカ的な価値観に支配されそれに歓喜して受け入れたのだなあと思ったりした。それが悪いことだとは思わないし、まあ単純に市場の欲求をきちんと救いあげたのが国内需要で成り立つ日本と違い、最初から世界を見据えてグローバルに展開しその市場にあったものを提供する韓国芸能の方が日本の芸能にあったおごりに飽きれている人達にピンポイントで突き刺さったのだろうと。
yuck-milkshake
↑今書いてる作品のある章のタイトルにもらった曲。
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