大塚英志×樹生ナト「とでんか」二巻が出ていたので読む。原作者の大塚英志氏のお得意の民俗学と都市伝説を混ぜている作品でタイトル「とでんか」は東京都都市伝説専門苦情受付窓口=都伝課の意味である。
この作品は大塚英志×田島昭宇「多重人格探偵サイコ」での名脇役とも言える笹山徹がなぜか都知事だったりして大塚氏曰く笹山サーガの一つ。
「笹山サーガ」とは「黒鷺死体宅配便」(新宿区役所福祉課 第一係長)「探偵儀式」(警視庁捜査一課12係 係長)「とでんか」(都知事)の三つの大塚英志原作作品で「多重人格探偵サイコ」で本編前半の主人公である雨宮一彦(小林洋介(雨宮一彦になる前の主人格)・西園伸二(小林洋介に内在する別人格の一人))、本編後半の主人公である西園弖虎の近くにいて事件をずっと当事者ではないが一番近くで観ている笹山徹がおそらくは「多重人格探偵サイコ」のその後、あるいはパラレルワールドでの同一人物であると考えられる。だが、その後についてはまとまって書籍化されていない「試作品神話」(大塚英志×西島大介「試作品神話」とは同名だが内容は異なる)でその後の雨宮と笹山が出会っている物語も存在する。
「試作品神話」においては「多重人格探偵サイコ」のその後の世界であり、雨宮一彦は「レインツリー」と呼ばれている。この「レインツリー」は大江健三郎「「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち」より取られていると思われる。また角川スニーカー版の「多重人格探偵サイコ No.1 〜情緒的な死と再生〜」の各章のタイトルは大江健三郎の小説のタイトルである。
第一章/遅れてきた少年 第二章/壊れものとしての人間 第三章/案内人 第四章/個人的な経験 第五章/洪水はわが魂に及び 第六章/生け贄男は必要か 第七章/治療塔 第八章/身代わり羊の反撃
となっている。「東京ミカエル」は「芽むしり仔撃ち」を元ネタ、オマージュである。次巻「多重人格探偵サイコ No.2 〜阿呆船〜」は中上健次の小説・エッセイから取られた章タイトルになっている。
この辺りはラノベ(大塚英志の小説)を読む読者に次の読み物へ移行するようにと大塚英志が用意したギミックというか新しい出会いのきっかけとして使われている。と本人が語っている。
僕もその影響で多少は大江健三郎・中上健次作品を読んでみたりしたが時代の問題もあり読み辛さが先に来た。今だと多少は読み辛いということを耐えて進むということの意義とかわかる気がする。
笹山徹はいつも誰かに置いていかれる運命にあるというのが「多重人格探偵サイコ」での彼である。幼少期のエピソードもそうだったし、そこの辺りのモチーフとしては連合赤軍が使われている。ドラマ版では連合赤軍的な物語が展開される。彼はいつも当事者ではない、いつも主人公ではなく彼らの周りにいながら彼の力はほぼなんら役に立たないという無情さがある。
笹山は、彼は誰も救えないし、守れない、ただ全てが変わりゆくのを終わり行くのを一番近くで見ているという存在でしかない。だからこそ彼は死なないで生き延びる、だから取り残されていく。
これは大塚英志原作「摩陀羅」シリーズにおける主要キャラでありながら人として存在する沙門というキャラクターと同じである。この作品のモチーフは「転生」であるが、彼はただの人間としてしか存在しない、彼もまた摩陀羅、麒麟、ユダヤ、カオスに置いていかれる運命であり最終的には全てが終わった後に始まる「天使篇」(未完)で壊れる。
大塚英志原作の「摩陀羅」「多重人格探偵サイコ」に共通するのは終わっていない作品の後から始まる物語が存在している。本編も未完だったり、継続中でもその後の物語が彼によって小説という形で展開され、いつもながら未完、あるいは出版社とケンカして連載中止になっている。
小学生からの大塚ファンであるのでもう慣れに慣れてしまったが。あとは天皇に関する事柄を漫画や小説に持ち込むとほぼ連載中止や連載していた雑誌が廃刊などことごとく途中で終わる。
「摩陀羅 天使篇」も三巻で天皇が出てきた辺りで出版社とケンカして途中で終わっている、未完。しかも今や絶版。「多重人格探偵サイコ」が終わったら「転生編」よりもこっちをやってほしいが「僕は天使の羽を踏まない」で「摩陀羅」シリーズは終わった事になっているのでやらないだろう。
気が付いたら「黒鷺死体宅配便」がほぼ「多重人格探偵サイコ」に巻数が追いついている。
「摩陀羅」サーガ、あるいはその破片
「探偵儀式」ファイナル
「東京ミカエル」
古川日出男「4444」20話「どっちの五叉路? え、十叉路?」
河出からの古川さんのMMMによると今角川書店「野性時代」で連載中の「黒いアジア」は2012年には刊行できるらしい、二年以上も先だけどもかなりの長編だ。
「聖家族」よりも長い作品になりそうだ。先を見て今を動かないと行けないという事を教わる感じだ。先を見据えて行動しないと新しい扉は開けないし、可能性がなくなるということだろう。
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