河出書房新社のウェブサイト上で古川日出男さんの連載小説「4444」が始まっていて、第一回「どうやったらプールでうなぎを養殖できるか?」の登場人物の弟くんの方が読み終わってから、ふいにあの子って「サマーバケーションEP」の主人公の男の子の数年前の設定なんじゃないのか?と頭をよぎった。なんだろう、話し方が似ていると言うだけなんだが僕の中で同一人物のように勝手に繋がった。
しかし、なんでウェブサイト上で発表してるんだろうか。河出からは「ボディ・アンド・ソウル」と「ハル、ハル、ハル」が出ているけど。
古川日出男さんの連載小説「4444」
http://mag.kawade.co.jp/4444/
そういう流れでvol.1から買って読んでいる「モンキービジネス」の最新号「箱号」が出た。柴田さんが翻訳した海外作家とかも読むようになったり、古川さんが短編を毎号書いている事もあって買っているんだが。柴田さんはスティーブ・エリクソンの新しい作品の翻訳で出してくれないのだろうか。
ひとつ言える事は高えぇって言う事ですね。毎号微妙に値段が上がってきているような・・・、今号千五百円になっている。この薄さでこの値段の文芸誌ってあんまりないような気はする。メフィストやファウストとかは分厚いからわかるんだけど。
海外の作家の小説や短編を訳すと権利問題で金がかかるのかなとしか思えないが実際はどうなんだろう。
古川日出男「五十音順のゴシック――T型のための抜粋版」という短編をまずは読んだ。あれ〜、この感じは少し「サウンドトラック」を思い出す。東京都だが、実際には東京都だと認識されていない場所から物語が始まる。伊豆諸島、小笠原諸島は東京都だ。あとは冬眠している怪物はvol.1収録の「怪物たち」っぽいし、この「モンキービジネス」の短編は実は繋がっている?と思わせる流れだ。今読み返している「サウンドトラック」はヒツジコが小笠原諸島の父島から区内の荻窪に養子となり住んでいる。ビルがない東京からビルのある東京へ、この辺りの感じが伊豆諸島からやってきた少女とシンクロする。
魔女、犬狩り家、鰓で話す魚、なにかが繋がるみたいだ。大きな物語の一編として今まで「モンキービジネス」に収録された短編は存在しているみたい。古川さんは東京を描いているなあ、僕のは全てが把握できない、もちろん。だから惹かれて読むのだけど。でも、文体と物語の性質上、カルトな作家な扱いはされてしまうだろう。「聖家族」以降「ハル、ハル、ハル」みたいなポップな作風が出てくると新たな読者がつきそうではあるが、「LOVE」の続編「MUSIC」も気が付いたら発売される感じだろうか。そういう詳細な情報を伝えるものがない、ひょっとしたら河出書房のサイトがそれになるのかならないのか、それは知らない。
CUT 特集:『破』が教える、エヴァンゲリオンは生き続ける。
http://www.ro69.jp/publish/cut/next.html
↑表紙の真希波・マリ・イラストリアスは実際に見るとかなりいい感じ。パラパラめくると特集すぐに終わるので買わないでいいやと。庵野さんのインタビューがないのと関係者もまだ先のことを言えないというのもデカイのと誰も分析して後から違うじゃんみたいなことを言われたくないのか、関係者と声優に軽めにインタビューして終わってた。これだと特集として弱いなあ。
Life番外編 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版・破」Part1〜3
http://www.tbsradio.jp/life/2009/07/lifepart.html
http://www.tbsradio.jp/life/2009/07/lifepart2_3.html
http://www.tbsradio.jp/life/2009/07/lifepart3_1.html
「旧劇場版」で病棟にいるアスカを前にオナニーをしてしまうまで壊れてしまったシンジはギャグみたいなもんだったのか? 稲葉振一郎さんはそういう感じのことを言っているけど。確かにアスカはひたすら虐待されて、シンジも痛めつけられたのが「旧劇場版」だったんだけど。
当時高校生で劇場で観た時はギャグとか思えなかったなあ、切実な痛みにしか。ほぼ年齢が近い僕とそこから離れた年の人では感じ方は違うのは仕方ないけど、大人にとってはギャグぐらいな壊れ方をしてたのか。あの壊れ方ぐらいに世間は壊れていたんじゃなかったっけ?それは世界の謎だったけど。
世間がぶっ壊れた中で思春期を過ごした人間としてはその痛みを押し付ける世間というものを「エヴァ」を通して感じて、僕らの十代とか過ごしているこの時代はかなりひどいんだと思ったものなんだが。
「新劇場版」が繰り返しの物語だとしても悲惨な終わり方にはできないだろう、何度も人生がやり直しができても意味なんかないんだっていうことを敢えてやるんだろうか、それはトラウマになりえるけど。商業的に成功させれる作品で産業としての「エヴァ」として成り立っているのにそれをやるとは思えない。そりゃあ、「旧劇場版」のトラウマの残し方には勝てないと思う。トラウマ残った方が印象的には強い。
charlieの言うように夢オチだったら本当の意味で怖いというか、シンジがパンをくわえて走ってきたレイとぶつかってっていう学園エヴァが本当の世界だったら・・・。「エヴァ」とか「使徒」とか「セカンドインパクト」とかなくてミサトさんとか加持さんが学校の先生だったりするそんな世界で、いわゆる僕らの現実世界みたいな世界を生きる方が「エヴァ」がある世界を生きるシンジよりももっと生きる事は悲惨な困難な気がしてくる。
大塚英志「僕は天使の羽根を踏まない」文庫版あとがきより
少し前、物語の中途で現実を突きつける類の小説が嫌いだ、と、ある優れたノベルズ作家が書いているだか発言したらしい、と誰かのコラムで読んだ記憶がある。ああ、それは例えばぼくの書いてきた小説のようなものを指すのだろう、と思った。作者は読者が小説のページを開いている間は読者が現実ではない世界を生きる権利を保証すべきだ、というのが多分、その作家の考えるプロとしての作家なのだ、と思う。それはそれで正しい。しかし、ぼくは中途でしばしば物語ることを放棄するし、読者に小説の外側の世界をいつも突きつけようとする。なるほど、しばしの間、夢を見ていた読者にとってぼくは迷惑で無責任な小説家なのだろうが、しかし、ぼくにとって小説は夢を見せるためではなく、醒めさせることのためにある。
それは小説だけではなく、まんがや批評めいた文章や、あるいは大学の教壇で授業をすることを含めて、ぼくの表現はすべからく、夢を見せるためではなく、夢から醒めさせるためにある、と言える。
大塚英志「多重人格探偵サイコ No.2阿呆船」文庫あとがきより
速度。そう、重要なのは消費される小説だけが持ちうる速度だ。屑さえも書物に仕立て上げる速度だ。その速度に乗せなければ届かない言葉がある。
その速度に乗せなければ届かない遠い場所に読者がいる。十四歳の、それこそちょっと前ならポケットのバタフライ・ナイフを握りしめて、世界中を呪詛しているようなそんな少年に最初に届かなかったら「サイコ」は止めるよ、とぼくは連載を始める時に編集者たちにいった。
別に十三歳でも二十三歳でもいいのだけど、例えば、「エヴァンゲリオン・完結編」を最後までやっていた新宿の小さな映画館で、思いつめたように階段を降りてきた高校生の女の子とか、十年前、糸井重里の若者番組の片隅に座って一言も話せなかった、まだ幼女を殺していない時のぼくの今の文通相手とか、つまり、そういう連中にだ。
彼らにことばを届けるのは消費される小説の速度が必要だ。
かつてのぼくもそうだったから。速度。
書いていて上記のあとがきを思い出したので文庫を引っ張りだして書いてみた。「旧劇場版」での最後の庵野さんの暴走におけるファンへの愛憎入り交じる終わり方は夢から醒めさせる効果があったのではなかっただろうか。でも多くのファンは夢から醒めない方向を選んだ、つまりあの最後はなかったことになった。もう一度庵野さんが夢から醒まさせる方法を取るなら確かに夢オチで、困難な現実を、僕らにとって切実な世界を描くということはありえるのかもしれないなあと思う。
思いつめたように階段を降りてきた女子高生はおそらく僕と同年代だろう、その彼女は「新劇場版」を観たのか観なかったのか。幼女を殺していなかった文通相手というのは去年死刑が執行された宮崎勤だ。どうでもいいけど初めて東浩紀さんの名前見たのは「新現実」vol.1で責任編集のとこに名前があったからなんだよなあ。しかし、「新現実」出ねえな。
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